大判例

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東京高等裁判所 昭和27年(う)2214号 判決

〔抄 録〕

所論は(1)被告人が原判示事実について五味重造と共謀であるとの認定は事実を誤認したものであり、(2)仮に然らずとしても被告人は本件について中止未遂に終つたのであり、それにも拘らず原審が被告人に既遂の責任を負はせているからこの点に於ても失当であると主張する。しかしながら、

(1) 原判決挙示の証拠特に原審証人五味重造の証言により被告人が五味重造と共に手形の割引により金融を受けようとし、三重県信用農業協同組合連合会に対し約束手形一通の割引を折衝していたところ、該手形につき甲府信用組合の支払保証を要求されるや、五味に対し右約束手形に「オマジナイ」をすること即ち甲府信用組合の名により虚偽の保証文言を記入することを申し入れ、茲に五味と共謀の上で行使の目的を以つて原判示のように甲府信用組合長浅川彦六名義による該手形に支払保証をする旨虚偽の記入をした事実が明白であると共にその後該手形を情を知らない玉岡光夫、吉岡長雄を介し三重県信用農業協同組合連合会に真正なものとして割引を求めるため提出行使し、右連合会係員をしてその旨誤信させ、手形割引名義の下に金百八十二万四千三百三十一円四十八銭を府中農業協同組合(約束手形受取人)の連合会に対する預金口座に振り込ませて同協同組合に財産上不法の利益を得させた事実の存することが認められるのであるから、たとえ右手形を吉岡長雄に交付したのが被告人ではなく、五味重造であつたにしても、被告人が原判示事実全部について共謀共同正犯者としての責任を免れないのであつて、原判決に所論のような事実誤認は存しない。所論は原判決の採用しない三浦久子の証言や被告人の原審法廷に於ける供述を基本として原審の適法な証拠の取捨を論難するに過ぎないのである。更に

(2) 中止未遂の主張についても原審証人吉岡長雄同五味重造の証言によれば、支払保証の点について虚偽の記入をした本件手形を割引のため、三重県信用農業協同組合連合会に提出し、その割引を受けることに成功したが、その頃玉岡光夫の主唱に基き、手形割引により得た資金の使途につき被告人を除外しようという申合せができたため、手形割引に成功したことを被告人に打明ける者もなく、それだからといつて、それまで重要な関係者の一員として被告人の協力を求めてきた手前いまさら手形割引のその後の経緯について何の話もしないでおくというようなうとうとしい態度に出るわけにもいかないので、吉岡長雄は既に手形割引に成功していたに拘らず被告人に対し前記連合会は信用状の点を再調査することとなり、金融は成功しなかつた旨虚偽の報告をし、その他の関係者からも被告人に対し手形割引を求めることを延期したかのような書面を書き送つたことがあり、被告人はこれを信じ未だ手形の割引を受けていないものと信じていたことが認められるけれど、それは本件犯行が手形割引に成功し既遂の状態に達して後のことであり、手形割引を受ける前に被告人がその犯意を飜えし、五味重造、吉岡長雄等に対し、手形割引を受けることを取り止めにするとか、連合会に差し出した手形を取り戻すように勧告したことを認めることができない。それ故被告人が手形割引を受ける行為が延期され或は一旦中止されたものと信じていたとしても、被告人の罪責に影響を及ぼすものとはいえないのであり、被告人に対し有価証券虚偽記入同行使、詐欺の各所為につきいずれも既遂を以つて処断したことは正当で、中止未遂を主張する論旨はその理由がない。

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